映画『トウキョウソナタ』平凡な家族の裏に起こる様々な問題とは
東京で暮らす家族の日常生活を描いた作品です。当時の世相を現わす場面も強調して描かれています。2008年公開の日本・オランダ・香港の合作映画です。
2008年頃は「派遣切り」という言葉が流行した時代です。
「派遣切り」とは派遣労働者をいとも簡単に解雇することで社会問題になりました。
中でも派遣社員として会社の寮に住みながら働いていた人は、解雇を言い渡されると住む場所までもなくなるという悲惨な現実もありました。
それが浮き彫りとなったのはリーマンショックなどの世界的不況などでより多くの派遣切りがあり、マスコミが取り上げるようになったためです。
それまでも派遣社員という立場は弱く、社員のさじ加減ひとつで簡単に解雇されてきました。
「派遣切り」にあった多くの人を救おうと、ボランティアの方々が都内の公園で食事を提供してくれているということもニュースになりました。「炊き出し」とか「配給」なとど呼んでいたようです。
映画の中でも「配給」の恩恵にあずかっている場面が出てきます。
また映画では多くの人が行列をなしてハローワークで職業相談をしている様子も描いています。しかも長時間狭い階段に密になって立って並ぶという過酷さです。これはちょっとおおげさではないかと思っています。映画ですから強調するのでしょうけれど。
今はネットで仕事探しが主流なので、ハローワーク頼みの様子を見ると時代を感じます。
日常生活を描いていますが、ちょっとしたスパイスは効かせています。
それは家に強盗が入り、盗難車を運転させられ浜辺で一夜をすごし、目覚めると強盗は姿を消していて、海に向かって車輪の跡が残っていた。
ショッピングモールで清掃の仕事をしていると、トイレに大金が落ちていて、最初は盗んでしまうが結局落とし物BOXに返す。
長男がアメリカの軍隊に入りたいと言いだし、父親の反対を押し切って渡米。日本人の若者でアメリカの軍隊志願者が急増しているとテレビでも報じた。
などというエピソードです。
目次
受賞
第61回カンヌ国際映画祭の
「ある視点」部門審査員賞
を受賞するなど多くの映画賞を受賞している作品です。
脚本
脚本は
マックス・マニックス、黒沢清監督、田中幸子さんの共同執筆です。
原作本はないようです。
脚本のマックス・マニックスはオーストラリア出身の映画監督・脚本家です。英語教師として日本で11年暮らしていた略歴を持ちます。元ラグビーリーグの選手です。
田中幸子さんは黒澤監督に師事していました。
主なキャスト
佐々木竜平:
香川照之
佐々木恵:
小泉今日子
佐々木貴:
小柳友
佐々木健二:
井之脇海
金子薫:
井川遥
小林先生:
児嶋一哉(アンジャッシュ)
黒須:
津田寛治
強盗:
役所広司
ストーリー
(途中まで)
ネタバレ注意
佐々木家は竜平(香川照之)と妻の恵(小泉今日子)、フリーターで長男の貴(小柳友)、小学6年生で次男の健二(井之脇海)の四人で東京の2階建て一軒家に住んでいた。
竜平は会社で総務部課長だった。ある日中国の大連に総務部を置くことになったと上司より呼ばれ「今後総務を離れて何をやりますか。あなたはなにができますか。自分で見つけてください。あなたの自由ですが、あなたの最大限の能力を発揮していただくか、ここを去っていただくか」と言われ、憤慨して荷物をまとめてしまう。早々に家に帰るが家族には言えずじまいでしばらくは無職になったことをふせることになる。
次男の健二(井之脇海)は授業中に隣の席から漫画本が回ってきて、隣の者に取り次ごうとしただけなのに、先生(児嶋一哉)にみつかってしまい、叱責され立たされる。自分だけ罰を受けたことに納得がいかないと抗議するがまったく聞く耳を持たない先生だった。
健二は学校の帰り道、ピアノ教室の前を通っていたこともあって、ピアノを習ってみたくなり親にお願いするが聞き入れてもらえず、給食費をレッスン代にあてて内緒で習い始めた。
給食費が3ヶ月、1万5千円分未納ということで学校に呼ばれた母親の恵は、先生から注意を受ける。
健二が自分の部屋で拾ってきた音の出ない電子ピアノで練習しているところに、恵が突然入ってきて、給食費をピアノのレッスン代にあてていることを知り、「そのくらい出してあげるわよ」と理解を示す。
ピアノの金子先生(井川遥)は健二に「あなたには才能があるから音楽系の中学校に進学したほうがいい」と強くすすめる。「親が反対しているので」と健二がいうも「私からうまく話してあげる」と直筆の手紙を健二の親宛に出す。それがきかっけで大反対する竜平と健二はもめることとなり、健二は階段から落ちて救急車で病院へ運ばれる事態になる。
竜平は昼間はハローワークへ通い、近くの公園で「配給」の恩恵にあずかっていた。
すると中学時代の友人である黒須(津田寛治)と公園で出会う。二人はお互いが求職中だということを察知し、意気投合する。そして黒須の家での夕飯によばれ、黒須の妻と娘と4人で夕食をいただく。黒須も家族に求職中だということを話していないらしく、忙しそうに携帯に出て仕事の連絡を受けているふりをする。黒須の携帯は1時間に5回、呼び出し音が出るように設定してあるという。そして電話に出る演技をしているのだという。
竜平はハローワークで仕事を探し続け、ようやくなんとか清掃員の仕事に就くことができた。
それはショッピングモールでの清掃の仕事だった。スーツでショッピングモールへ行き、10人くらいの同僚と一斉にモール内の廊下で清掃服に着替える。仕事が終わるとまた着替えて帰るという毎日だ。
あるとき黒須に連絡してみたが、連絡がとれず、家まで行ってみた。すると玄関を掃除していた女性より黒須がおととい夫婦で心中をはかったと聞かされ呆然とする竜平だった。
長男の貴(小柳友)は「アメリカの軍隊に入りたい、自分はまだ未成年だから親のハンコが必要だから押してほしい」と恵に言ってきた。反対すると「そういう人のための団体に頼むから」と言われ「知らない人の世話になるのなら」と了承する。貴は身体検査も合格して、最後の書類の承諾を竜平に頼む。しかし竜平は大反対。反対を押し切って貴はアメリカへ飛び立った。
恵がひとりで家にいる貴が帰ってきた。そして「たくさん人を殺しちゃった。殺し過ぎちゃった」とぐったりと座る。それは夢だった。ハッとして起き上がり、戸締まりをするとすでに強盗(役所広司)が家の中に入って隠れていた。包丁を突き出し「現金はどこだ」という。「現金は置いていない」というと悔しそうにしてそのまま出て行った。と思ったら戻ってきた。パトカーのサイレンが通り過ぎる。「危なかった」と強盗。
強盗は車を盗んできたから運転するようにと恵に言う。仕方なく運転する。しばらく行って「トイレに行ってもいいですか」と恵が言うと「逃げるのか!」と強盗。「いいえ!」と言ってショッピングモールに入ると恵はそこで働く竜平とばったり出会う。
竜平はその直前、トイレで大金を拾ったばかりだった。拾ってパニックになって仕事を放り投げて走っていたのだ。竜平は「違うんだ。違うんだ」と言って恵の前を立ち去った。
車に戻った恵は憤慨していた。「あんたはこのまま駅に行ってそこから家に帰りなさい」と強盗に言われるも、言うことを聞かずにそのまま海辺まで運転していき、二人で一夜をすごす。
恵は「これまでの人生が全部夢でふっと目が覚めて全然違う自分だったらどんなにいいだろう」とつぶやく。
朝目覚めると強盗は姿を消していて、浜辺に車もなく、ただタイヤの跡が海にむかって二本残っているだけだった。
スタッフ
【監督】 黒沢清
【脚本】 マックス・マニックス、黒沢清、田中幸子
【音楽】橋本和昌
映画
『トウキョウソナタ』
2008年9月
日本公開
※日本・オランダ・香港の合作映画