映画『岸辺の旅』独特の死生観、不思議な大人の物語

3年もの間失踪して突然戻った、もうすでに亡くなっているという夫と、夫が行きたい場所へ旅をする夫婦の物語です。

演技派の浅野忠信さんと深津絵里さんのW主演ですので、見応えがあります。

2015年、第68回カンヌ国際映画祭・「ある視点」部門での監督賞受賞を始め多くの賞を受賞しています。

 

 

特徴

亡くなっているのに、生きている人間と同じような姿で現われ、普通に暮らします。この世に未練があったり、やるべきことが残っていると、残れるようです。やるべきことがなくなったりすると、姿が消え、本当に死んだということになるようです。

こういう独特の死生観をもった原作を映像で表現しています。

一見、亡くなっている人なのか、生きている人なのか、見分けがつきません。

そして「消え方もそれぞれ」で、どうやって消えていくのか本人もはっきりとわかっているわけではないようです。

 

 

原作との違い

ざっくりとはほぼ同じですが多少の違いがあるので、原作も映画も両方楽しめます。

 

・原作は妻が夫を戻ることを願って写経をしていたのに対して、映画は稲荷神社の祈願書を100枚書きます。

そして瑞希はこの手記を旅に持参して行きます。旅から戻りたくなったら燃やせばいいと優介に言われて。

 

・原作は妻は事務員をしながら休日に結婚式場でピアノ演奏をするという設定ですが、映画では子ども向けのピアノの先生です。

 

・朋子さんの存在と妻のとらえ方も原作と映画では違うように感じます。

 

・夫に、妻の父親の意識が乗り移るシーンは、映画では別人が演じています。

 

・ラストはどんな風になるのか期待していましたが、原作とはまったく違ったラストでした。

 

ですので、映画をこれから観る人は、夫がどうやって消えるのか楽しみに観て欲しいと思います。

 

 

原作

原作は湯本香樹実さんの同名小説です。

湯本香樹実さんは東京音楽大学作曲学科卒業です。

三枝成彰氏作曲の『千の記憶の物語』などのオペラの台本も執筆しています。多くの受賞歴のある方です。

 

 

主なキャスト

薮内優介
浅野忠信

 

薮内瑞希
深津絵里

 

松崎朋子
蒼井優

 

島影
小松政夫

 

神内
千葉哲也

 

神内フジエ
村岡希美

 

星谷
柄本明

 

星谷薫
奥貫薫

 

星谷タカシ
赤堀雅秋

 

瑞希の父
首藤康之

 

 

あらすじ

※途中まで
ネタバレ注意

 

【場面1】自宅

夫・優介(浅野忠信)が失踪してから3年。妻・瑞希(深津絵里)はいつもと変わらぬ生活をたんたんと送っていた。その日は白玉団子を作りたくなり、粉から買って作っていた。すると部屋に人の気配がして振り返ると、優介が立っていた。

びっくりするも「おかえりなさい」と冷静に声をかける。

すると優介は「おれ、死んだんだよ。富山の海でね。体はとっくに蟹に食われてなくなっている。だから探しても見つからないんだ」
という。

ひと言「そう」と瑞希。

優介は白玉団子をおいしそうに食べた。

次の日、目覚めた瑞希は「変な夢を見た」と思った。台所へ行ってみると、昨晩優介が食べた白玉団子を入れた容器がシンクに置いてあった。「夢ではないのだろうか?」と思っていると、優介が現われた。

そして「一緒に行かないか?」と旅に誘う。

 

 

【場面2】島影さん宅

以前、優介がお世話になった島影さん(小松政夫)という新聞屋さんへ行く。島影さんは優介たちを歓迎してくれ、二人はしばらく手伝いながらそこに暮らすことに。

優介が言うには、島影さんも自分と同じ。
でも「島影さんは自分が死んだことすらわかっていない。おそらく責任感が強いんだ」という。

島影さんは新聞広告などに載っていた花の写真を切り取って集めていた。なにに使うかわからないが嬉しそうに切り抜いていた。

あるとき島影さんの具合が悪くなり、二人は肩を貸してあげ島影さんの部屋まで運びベッドに横たえた。すると部屋の壁一面に切り取っていた花の写真が貼られていて、まるで花畑のようだった。

きれいな満開の花を背にベッドに横たえていた島影さんだった。

翌朝、部屋から玄関に出て戻ろうとした瑞希は驚く。

昨日まで普通に存在していた新聞社の事務所が廃墟となっていた。しかも既に何年も経ってしまったかのごとく朽ち果てていた。

島影さんの部屋には誰もおらず、花の写真もほこりをかぶりはがれ落ちていた。

 

 

【場面3】神内夫妻宅

二人は街の中華料理店を営む神内夫妻の元でお世話になっていた。

優介は家では料理はまったくやらなかったのに、ここでは器用に餃子の皮を包んでいる。

久々に使うという宴会会場を掃除するため、瑞穂は離れの建物に向かった。

そこにはピアノが置いてあって、「天使の合唱」という楽譜を見つけた瑞希は弾いてみた。

すると「勝手なことしないで!」と神内の妻・フジエ(村岡希美)から叱責を受けた。

瑞希は必死に謝罪する。

思わず瑞希を叱責してしまった理由は、亡くなった10歳年下の妹を思い出すからだという。

妹は「天使の合唱」を気に入り、そればかり何度も何度も弾いていた。ところがあまり上手に弾けない。それでイライラしてぶってしまったこともあった。その直後、フジエが18歳のとき、妹は急死してしまったのだ。そのことを後悔してフジエはピアノをやめてしまったと。

すると亡くなった妹が現われた。

瑞希は「おいで」とピアノの前に誘導し、ピアノの先生のごとく優しく指導する。妹はピアノを弾いた。そして消えた。

 

 

【場面4】朋子と対面

優介が失踪時、行方の手掛かりを探すため、優介のパソコンをチェックしていた瑞希は優介が朋子(蒼井優)という女性と付き合いがあったことをつかむ。

朋子のもとに失踪した優介が行っていないか、たずねていた。

その頃、朋子から瑞希宛に送られてきた書簡を瑞希はこの旅に持ってきていた。

そして優介に「朋子に会いにいこう」と言った。

優介は乗らない。

瑞希はひとりで朋子に会いに行った。

家に戻り、ひとりですごしていた瑞希はもう一度白玉団子を作れば優介が現われるのではないかと思い立ち、作ってみた。

すると優介が現われた。

 

 

【場面5】星谷宅

タバコ栽培している農家の星谷(柄本明)宅は、以前優介がお世話になっていたときに、優介は学校の先生のごとく勉強を見てあげたり、村の人に講義のようにお話を聞かせてあげていたという。

二人は星谷宅にお世話になることに。

星谷家では、夫(赤堀雅秋)が亡くなっていたが、優介と同じ状態だった。

妻(奥貫薫)は事情を知っていて、「ほっといてください」と瑞希たちに言う。

そしてこの頃、瑞希はすでに亡くなっている父親と対面して話をする。

 

 

【場面6】ラスト

優介はほとんどものを食べなくなっていた。

別れの予感がする瑞希だった。

 

映画
『岸辺の旅』
2015年公開