『ザリガニの鳴くところ』原作も映画も素晴らしい!どちらもぜひ!
テレビ番組の映画紹介で作品を知りましたが予告編を見ても特に「見てみよう」という気持ちは起こりませんでした。
しかしいつものクセで映画の原作はチェックしてみようと調べたところ
2021年本屋大賞翻訳小説部門第1位
全世界1000万部以上!
という文字が目に飛び込んできました。
全世界で1000万部以上とはすごすぎる?!
どういうこと?
しかも何年もかかってこの数字ではなく2019年からわずか3年でこの成果とは!
翻訳する時間も考えると信じられないほどの短期間に大ヒットしたことになります。
小説は好みがあるけれど、「一度読んでみなければ」と俄然興味が沸き立ちました。
図書館の予約はまあまあ順番待ちですが、焦らず待ちました。映画公開中に順番が回ってきました。
読み始めてすぐに引き込まれ、あっという間に完読しました。
さすが全世界1000万部以上!
数字は嘘をついていなかった。
これは映像も見てみたい!
湿地ってどんな感じなの?
湿地に住む人たちって?
ポーチってどうなってるの?
7歳で母親ときょうだい4人が出て行って、10歳で独り暮らし。自力で稼いで学校も行かない子供って?
果たして映画でどのように表現しているのか?
本の世界を実写でどこまで見せてくれるのか?
これほどまでに原作を読んで映像を確認したいと思った原作本は久々です。
映画公開も終盤に入り日に1本になっていましたが、なんとか劇場で観ることができました。
目次
ストーリー
村の青年チェイスが殺された1969年から物語は始まります。
チェイスの遺体は村の少年たちによって沼地で発見されました。
古くさびた火の見やぐらのすぐ下だった。やぐらから落ちたようだが、まわりには誰の足跡も残されていなかった。
誰かがその足跡を消したことになるのでは?となると殺人事件なのでは?!
と推測された。
そして主人公カイアの幼き頃。1952年カイアは7歳だった。
カイアの少女時代と、チェイスが殺され裁判沙汰になった1969年以降の物語が交錯します。
具体的には?
湿地に暮らしていた6人家族が父親のDVにより母親、長男、長女次女、次男の4人が次々と家を出ていった。
三女の主人公カイアは父親と二人で暮らすようになる。
やがて父親も帰ってこなくなり、カイアはわずか10歳にして湿地の一軒家にひとり取り残される。
無断欠席補導員がカイアを給食でつって学校へ行かせるが「湿地の娘」と揶揄され辱しめを受けたカイアはわずか1日で学校へ行かなくなった。
父親が戻ってこなくなるとお金と食料が底をついた。
カイアは湿地のムール貝を獲って売ることを思いつく。
貝を売って暮らすも14歳にして文字も読めないし30以上の数字を数えることもできなかった。
この境遇を不憫に思ったカイアのすぐ上(といっても7歳年上)の兄ジョディの幼馴染みのテイトが文字を教えてくれるようになった。
カイアは文字が読めるようになると本に夢中になり大学生が読むような本も図書館から借りて読むようになる。
また母親譲りなのか絵の才能があり湿地の生物を調べては絵に書き写し手書きの生物記録を次々と残すようになっていた。
いつしかテイトとカイアは恋仲になっていた。
ところがテイトが大学進学のためにいったん湿地を離れなければならなくなった。
1か月後の独立記念日には戻ってくると約束をするがテイトは現れなかった。
裏切られたと激怒したカイアはテイトに憎しみを持つようになる。
その頃村の青年チェイスと知り合う。
チェイスは裕福な家のボンボン息子ではじめは興味本位でカイアに近づいたが、やがて惹かれていく。
カイアはテイトのときのような悲しい思いをしたくないと思い慎重にチェイスに接していた。
時は流れて大学を出たテイトが湿地に戻ってきた。
こちらの研究所に勤めることになったのだ。
カイアへの想いが本物だと気づいたテイトだったがチェイスとのうわさを耳にしていたし、独立記念日の約束を破りそれ以来連絡もしなかったのでカイアに会いづらく遠くから見守っていた。
とうとう意を決してカイアに会いに行くと驚いたカイアは憎しみがこみあげてきてテイトに石を投げつけ激しくののしった。
テイトは「チェイスはやめたほうがいい。
街ではいろんな女の子と遊んでいる」と忠告するがカイアに自分のことを責められなにも言えなくなる。
チェイスはカイアがイヤがることはしないと誓い気遣っていたが「もういいだろう」と求めてきた。
結婚の話もちらつかせていた。
カイアは許した。
が、その後チェイスの婚約を新聞で知ってしまう。
またもや裏切られたと激怒したカイアはチェイスにあたる。
しかしチェイスはカイアを殴って強引な行動に出た。
カイアもやり返し逃げた。
カイアは母さんがなぜ去ったのかようやくわかった。
チェイスは父さんと同じだ。
こういう人間は最後に自分が殴って終わらないと気が済まないのだ。
きっとまた殴りにくる。
しかしびくびくしながら生きるなんてそんな人生ごめんだ。
そんな生き方はしない!とカイアは決意する。
湿地
湿地というと日本では北海道の釧路湿原を思い出します。
何回か行きました。
しかし原作のように水に囲まれた沼地に家を建てて住み、ボートで移動。家のまわりは森で大自然に囲まれているという感じではありません。
本あとがきによると—-
原作の湿地はアメリカのディズマル湿地をモデルにしている。
ディズマル湿地はもともとが4000平方キロメートルあったのが、破壊がすすみ450平方キロメートルが国立野生動物保護区に、58平方キロメートルが自然保護区になっている。
————
釧路湿原が約2507平方キロメートル。
面積だけ比べてもわからないですね。
森の深さが違うような気がします。
未知の世界ですね。
オオカミとか熊とか大丈夫なのかな?という疑問もわきます。
ザリガニの鳴くところとは
茂みの奥深く、生き物たちが自然のまま生きている場所。
できるだけ遠くに。
ということのようです。
映画は
動物や自然相手なので大変だったかと思いますが映画はCGを使わず、いろんな場面がタイミングよく撮影されていました。
原作を読んだ直後だったのでストーリーはよく覚えていて、映画もほぼ原作通りに進んでいることを確認できました。
500ページにわたる長文ですが約2時間の映画でよくまとめられたものだと感心しました。
要所をはずさず原作を読んでいない人にもわかるように作っていました。
ただ細かい表現はぜひ小説で味わってほしいです。
映画を観てから小説を読むのもよし、小説を読んでから映画を観るのもよしで両方楽しんでほしい作品だと思いました。
食の描写
カイアは父親に置き去りにされ、あまりにもお腹がすきすぎて、無断欠席補導員の「給食はサクサクのチキンパイ」との言葉にひかれて初めて学校へ行ってみます。
映画では「チキンパイ」ではなく「ハンバーグ」に変更されていました。なぜ変更したのでしょう?
私は断然「サクサクのチキンパイ」の方を食べてみたいですが。
映画のスタッフはハンバーグのほうが魅力的だと思ったのでしょうかね。
原作にはおいしそうな食事の場面が何度も出てきます。
例えば
肉汁とコーヒーを合わせたレッドアイ・グレイビーソース
サワークリームビスケット
ブルーベリージャム
ササゲ豆と紫タマネギ
揚げ焼きにしたハム
コーンブレッド
細く切ってカリカリに揚げたブタの背脂
バターと牛乳で煮たライ豆
バタークリームを添えたブラックベリーパイにバーボンを少したらす
など「おいしそ~」と思ってしまいます。
コーンブレッドとグレイビーソースは何度も出てきました。
コーンブレッドはトウモロコシのパンとわかるのですが、グレイビーソースはわからず調べました。
肉汁をもとに作られるソースとのこと。
そういった原作の食の描写をことごとく無視したつくりだったので、映画のスタッフは食にあまり興味がない人たちだったのかなと思ったりしました。
原作者
あまりにも素晴らしい小説だったので他の本も読んでみたいと思って調べたところなんと原作者は生物学者であり70歳をすぎて初めて出版した小説がこの「ザリガニの鳴くところ」でした。しかも世界的大ベストセラーになるとは。
翻訳小説を読み慣れていないせいか、このような長文を書く作家は男性だと漠然と思っていました。
ネット記事で女性だと知り驚きました。本の後表紙に写真入りの作家紹介があったのに気づかずにいたのです。
後で考えれば女性目線の女性ならではの表現が多々ちりばめられていたことを思い返します。
繊細な表現は男性作家でも多く見かけますがそれだけではない書き方です。
結末
肝心の結末=誰か犯人だったのかは原作と映画と内容は同じです。
しかし表現を変えていました。
どちらもアリですね!
原作を読んで映画を観て、これからまた原作を読み返しました。
他にも読みたい本がたくさんあるのに、それを置いてでも「もう一度読みたい」。
そう思わせる作品は今までなかったですね。
映画
『ザリガニの鳴くところ』
2022年11月18日公開