山本文緒エッセイ『無人島のふたり』感想

2021年10月に癌で亡くなられた作家・山本文緒さんの闘病日記です。

山本さんらしい読みやすい文章と「この先どうなっちゃうんだろう」という思いであっという間に読み切ってしまいました。

毎年きちんと人間ドックを受けてきたのに突然の重病発症。

そんなに膵臓癌って見つからないものなの?!

思わずそう叫びたくなるのも痛いほどわかります。

 

サブタイトル

「サブタイトルの120日以上生きなくちゃ日記」は

最初の余命宣告は約半年。

しかし別のドクターからは4ヶ月と言われた。

4ヶ月は120日なのでそれを超えられるよう頑張ろう。

と言っていたことからつけられたのでしょう。

 

 

その4ヶ月は「いつから数えるのか?」。

癌を宣告されてからなのか、余命宣告の場からなのか。

癌を宣告されたのは2021年4月。

最初のドクターの診察は5月。ここで余命半年と言われました。

次のドクターの診察は6月。ここでは余命4ヶ月と言われました。

2ヶ月の差ですが、そのショックは大きい。

しかしどちらのドクターも「抗がん剤が効いたとしても9ヶ月」と言われていたそうなので、どっちみち「長くはない」と覚悟したことでしょう。

 

感想

山本さんが病気になる少し前、御主人が会社をやめていました。

自由がきく立場でいろいろ尽くしてくれました。

こんなに優しい御主人に巡り会って良かったですね。

なかなか巡り会えるものじゃないですよね。

 

山本さんの小説もエッセイも好きでした。何を読んでもガッカリしない作家さんでした。それこそ山本さんが「いくえみ綾」さんのことをそんなふうに書いていました。

新作が読めなくなるのは残念ですが、あるものを繰り返しじっくりと読んでいこうとあらためて思いました。

 

山本さんが本書の中で、ご自分が読まれた本について触れています。

よほど本が好きなのですね。体が苦しくても読んでしまう。苦しいときだからこそ読んで気を紛らわしたのでしょうか。

 

 

村上春樹さんのことを

読んでみればやはり巧さに唸る

と表現していたことに同意。

やっぱり「うまいんだ」と嬉しくなりました。

 

闘病中に読んだ本

以下本書に収められていた山本さんが闘病中に読んだ本と感想です。

P24
「きのう何食べた?」
の最新刊。

P28
金原ひとみ
「アンソーシャル ディスタンス」
死ぬことを忘れるほど面白い。

P92
吉川トリコ
「余命1年、男をかう」
面白かった。

P92
平野啓一郎
「本心」
余命ブーム?

p102
村上春樹
「女のいない男たち」
を再読。
ほとんど内容を覚えていなかった。
映画化された『ドライブ・マイ・カー』は妻ががんでなくす男の話で、これは夫に読ませるわけにはいかないと隠す。春樹さんの本から気持ちが離れて久しいけれど読んでみればやはり巧さに唸る。

p104
角田光代
「おやすみ、こわい夢を見ないように」
を夫に音読してもらう。
確か、姉と弟が造語でおやすみを言い合う好きなシーンがあって、そこがもう一度読みたかった。

p109
島本理生
「星のように離れて雨のように散った」
とてもよかった。初期のころの島本さんのテイストが復活しつつ、熟成した今の島本さんが仕上げた極上の対話小説だった。この本の中に村上春樹さんの『ノルウェイの森』について登場人物が意見を述べる場面があって、再読したくなってアマゾンで注文した。

p111
「海街diary」
食堂のおばちゃんが緩和ケア病棟に入ったあとはもうお葬式の場面だった。

P114村上春樹
「ノルウェイの森」
以前読んだときは緑という女の子のことがわからなかったが、今回は緑のことをかなり好感を持って読めた。春樹さんの研究本は山のように出ているが、そういうのはあまり読む気がしない。自分の印象を人の意見で左右されるのが、いやなのかもしれない。

P118
長嶋有
新作は150枚の私小説で長嶋さんの幸せそうな生活の話だった。古くからファンの私は、将来書かれるであろう、その新しい家で暮らす長嶋さんの小説も読みたかった。

P118
田中兆子
「イオンと鉄」
ものすごく面白かった。

P122
いくえみ綾
「おやすみカラスまた来てね」の最新刊。
ほぼデビューから全部読んでいる大好きないくえみさん。がっかりした新刊など一冊たりともなく、今回も夢心地で読ませて頂く。何て面白くて、何て素敵で、何て深くて、何度読んでも新しい。少女漫画界の私のアイドルです。

P166
海野つなみ
「Travel journal」
とても良い。小説でもああいうことが書けたらいいのにな。