映画『ナイトメア・アリー』闇の中の心理戦〈感想&あらすじ〉

怪しげでダークな世界を描いた作品です。1946年に小説『ナイトメア・アリー』が発表されると、大きな話題となり翌年には『悪魔の往く町』というタイトルで映画化されました。それから70年以上経った2020年に人気監督ギレルモ・デル・トロの脚本により撮影が行われ、コロナの影響を受けながらも2021年12月アメリカで、2022年3月日本で公開されました。

 

 

原作者

原作者のウィリアム・リンゼイ・グレシャムは1909年アメリカ・メリーランド州生まれ。父親の仕事の関係でニューヨークへ渡る。定職につくことなく職を転々とする一方、スペイン内戦に国際義勇兵として参加する。そのとき元船員から見世物稼業の世界について詳しく教わる。帰国後はひどいアルコール依存に陥り自殺未遂をおこすが一命をとりとめる。セールスマンや奇術師、実録犯罪雑誌の編集も経験する。1962年舌癌を患ったグレシャムはニューヨークのホテルで睡眠薬自殺をはかり53歳の短い生涯を終える。

 

 

 

原作者の体験

カーニバルの裏側(興行主と雇い人、客)
詐欺師
読心術
タロット占い
透視力
心霊術
心理カウンセラー

怪しい要素満載で構成されている内容です。身を削って体験した原作者のさまざまな経験が小説にいかされています。

 

 

脚本の力

原作も魅力的ですが、映画化するにあたって脚本はよく出来ていると思います。ミステリアスな部分を残しつつ分かりやすく構成されています。早めに落ちがわかったことを自慢している人もいるようですが、それだけが映画の価値ではないでしょう。ただ最後のセリフはどうかなと思います。

 

 

あらすじ

主人公のスタンは見世物小屋で下働きをするうちに、その裏側の世界を知る。中でも客の悩み事をズバリ言い当てる催し物に興味がわいた。言い当てられた客は本人もまわりも驚きに湧き大いに盛り上がる。しかしそれはインチキな方法を使っていた。

それでも客は案外コロリと騙される。その上、まるで神を崇めるかのように心酔するのだ。このテクニックを習得すれば道が切り開けるかもしれない。スタンは確信した。

やがて見世物小屋を出でて一緒に連れてきたジーナをアシスタントにナイトクラブなどでショーを行うようになる。

ショーは成功を重ねるが、ある時精神科医のリリス・リッター博士(ケイト・ブランシェット)がインチキだと言いがかりをつけ始める。

スタンは機転を効かせてうまくやりすごす。

このことがきっかけでリッターに近づき顧客情報をわけてもらうようになった。

リッターの要求は「なんでも正直に話すこと」。お金には関心がないという。

二人の関係はうまくいっているように見えたのだが…。

 

 

ギーク

驚きはギーク(獣人)の作り方。

カーニバルでの見世物のひとつ、ギーク。

「人間か獣か、おそろしい化け物です。こいつは何も食わずに生きていられる。しかしニワトリを与えるとその血をむさぼり吸うのです。さあ、ニワトリにくらいつく姿を見るには少しばかり料金がかかります」

といった口上で客をあおり、代金を徴収する。

円形の鉄の柵の下を客が見下ろすと、人間のように五体を持つ、しかし髪の毛はぼうぼう、肌は茶色、目はぎらぎらした、汚らしい者がいる。その者にニワトリを投げ与えるとニワトリの首にくらいつき、まっぷたつに首を引きちぎって血を吸い始めた。

客がいなくなるとギークは鎖で繋がれ檻に閉じ込められる。まるで獣あつかいだ。

「人間か獣か」とあおってはいるが、人間だ。しかしいったいどうしてこんなふうになってしまうのか。

主人公スタンはカーニバルの座長に聞く。

「ギークはどこで見つけるんだ?」

「見つけるんじゃねぇ。作るんだ」

と薄笑いをする座長。

どうやって作るのか。

それは、身の毛がよだつ方法だった・・・。

 

 

霊媒師

亡霊と話せる霊媒師もできるとうそぶくようになるスタン。

ある老夫婦の元へ行き、降霊術を披露し亡くなった息子の会話を伝える。

息子は「いつか会えることを楽しみにしている」と言っているという。

息子の言葉が聞けたと大満足の老夫婦。

亡くなった人の言葉を適当に伝えることで客も満足し、金儲けにもなると手応えを感じる。

その老夫婦は死んだら息子と再会できると妄想するようになった。

すぐにでも息子に会いたい。

妄想した老婆はピストルで夫を撃ち、自分も頭を貫いて無理心中を図ってしまった。

なんたる悲劇!

 

 

資産家の暴走

内向的で人を信用しない。金を持っていることで傲慢なところもあった資産家の老人。

ひと目でもいいから死んだ女性に会わせてほしいとスタンに大金を払って要求してきた。

スタンは幽霊に化けるようジーナを説得した。ただ遠くから立っているだけでいいと。

しかし資産家の老人は、ジーナを見るや、我慢できずに駆け寄って行ってしまった。

そしてとんだインチキ芝居だということに気づく。

「破滅させてやる!」

とスタンを責め立てた。

スタンはジーナに先に車に乗っているように伝え、資産家の老人を殺してしまった。

資産家の老人の秘書も駆けつけたが、車でひき殺してしまう。

スタンとジーナはどうなってしまうのか?!

 

 

スタンの最後

それは悲惨。
惨めすぎる。
そして「宿命なんだ」と声を絞り出す。

これは原作にないセリフ。

このセリフはあってよかったのだろうか。

このセリフのおかげで、ネットのレビューは「因果応報」という言葉がとびかう原因となっている気もします。

この言葉がなくてもわかったのに。

あえて付け足した意味はなんだったのだろうとずっと気になってしまいました。

 

 

霊を信じる人

70年以上の昔のこと。いまよりも霊の存在を信じて、霊媒師の言うことにだまされる人も多かったのかもしれませんね。

 

 

超能力

ごくまれに本当に超能力がある人がいると言われていますが、この作品はそういったほうには走らなかったのですね。すべてペテン扱いにしたこともまた意味のあることかもしれません。

映画
『ナイトメア・アリー』
2022年3月25日公開