柏葉幸子著『帰命寺横丁の夏』ダブルファンタジーの傑作!

亡くなった人が生き返る物語はたくさんあります。それだけ人気のあるテーマなのでしょう。

実際に生き返った人はいないのですから、その方法に正解はありません。いくらでも創作出来ます。

『帰命寺横丁の夏』も亡くなった人の生き返りがテーマの物語です。

そのルールは、単純でわかりやすい。

「ああ、そうなってもいいかもな」
と思えるものです。

お話はおもしろく、引き込まれてページをめくる手がとまらないといった魅力ある作品でした。

 

 

バチェルダー賞

本書は2022年、米国で「最も優れた」児童文学におくられるバチェルダー賞を受賞しました。

ちなみに英語のタイトルはTemple Alley Summer。
「寺裏通り(路地)の夏」
と訳されるようです。

またこの賞のかつての受賞者に

「精霊の守り人」「獣の奏者」の上橋菜穂子さんの名前がありました!
こちらの作品も海外で広く読まれていることは喜ばしいことですね。

 

 

映画公開

2021年8月には芦田愛菜ちゃん主演のアニメ映画『岬のマヨイガ』が公開されました。ですので立て続けに柏葉幸子さんのお名前を目にしています。

『帰命寺横丁の夏』も充分映像化して楽しめる作品だと思います。

 

 

特徴

この作品はファンタジーの中にファンタジーがある、ダブルファンタジーの構成になっています。

小学5年生の主人公・和弘が不思議な体験をし、その謎解きが続く中、更に不思議な物語が出てきて、引き込まれていきます。

この物語の構成が大きな特徴です。

また、冒頭でも述べましたが“死んだ人が生き返る”お話です。それも作者が発案した独特のルールのもと進んでいきます。創作なのでなんでもありといえばありなのですが、そのあたりも楽しんで読むことができます。

 

 

残念なところ

ちょっとだけ残念なのは、物語の中の物語の結末が中途半端でスッキリしない点でしょうか。

それはせがまれて久々に筆をとってみた。だからこんな出来なんだという設定なのかもしれません。

プロの作家でもない、プロになりきれなかった者が半世紀以上ぶりに創作したものだから、あまり素晴らしい出来ではおかしいと。

これは作者の都合の良い作り方だなと感じてしまいました。

物語の結末は、悩んで悩んで悩み抜いて完結するとしたら、それを放棄してはいないかと。

ついで物語の結末もあっけなかったです。
最初と中頃が引き込まれてページがとまらなかっただけに残念に思います。

しかし読みようによっては、こんなものなのかもしれません。

 

あらすじ

小学5年生の主人公・和弘は夜中に見知らぬ女の子が自分の家から出て行くのを目撃した。いまどき白い着物を着た女の子だ。「幽霊だ!」と叫んでしりもちをつき家の者を起こしてしまいあきれられる。

次の日学校へ行くと、その女の子が同じクラスにいた。昨日までは存在しなかった女の子のはずなのにみんなと仲良くすごしていてみんなは違和感なく、ずっと前からいたようにふるまっていた。

学校が終わって帰っていたら、その女の子・あかりがすぐ近所だということがわかった。あかりが家の中に入っていくのを偶然見かけた。するとあかりの家の中には姿が見えない母親の声だけが「おかえり」とあかりを迎えていた。透明人間か?!

しかし透明人間に見えるのは和弘だけらしい。他の人にはちゃんとあかりの母親の姿が見えるらしかった。

学校で大正時代の古地図の学習があった。和弘の家の前は“帰命寺横丁”というらしい。

夏休みの自由研究の表向きは「旧町内調べ」と題して、“帰命寺横丁”の謎を解くことにした。

そして帰命寺の謎にたどり着いていく。