映画「平場の月」見どころ、原作のあらすじ

地元に戻った同級生同士の大人の恋。
「ちょうどよい幸せ」で満足していた日常に思いがけない不幸が襲います。

主人公は壮年の青砥健将。
結婚して都内の製本会社で働いていましたが離婚して地元の埼玉に戻り印刷会社に勤め施設にいる認知症の母親を見舞う日々。

青砥は胃の内視鏡検査で訪れた病院で中学時代告白をしたこともある同級生の須藤と再会します。

須藤も結婚して東京で暮らしていましたが相手に先立たれ、その後年下に貢いで清算し地元の埼玉へ戻ってきていました。

二人はなんとなく付き合うようになります。

そんな中、須藤が大腸癌だと知らされます。

献身的に手助けしようとする青砥。
できるだけ手助けを借りたくない須藤。

物語は青砥の語りで進むので、青砥の心境がこと細かく伝わってきます。

後半、青砥がプロポーズしたとき須藤より「それ言っちゃあかんやつ」と言われ誤解して怒り、須藤と喧嘩になります。

読者としては
「マジ、わかんないの?青砥はなんでそう思うわけ?」
と思います。

なんで須藤の検査の結果をちゃんと聞かないわけ?

須藤の検査の結果が悪かったんでしょうし。

最後に面倒かけたくないからプロポーズを受けなかったんでしょうし。

と簡単に推測できますが、青砥はそこまで頭が回らなかったという設定で話は進みます。

結局それで二人は終わってしまいます。

青砥はプロポーズを焦って失敗したことを後悔します。思い返してみて“実はこうなんじゃないか”と自分の都合の良いように考え直します。自分を慰め、須藤ともう一度やり直せると思うようにして坦々と暮らします。

自分が青砥になったつもりで考えるとそれはわからなくもない。

須藤の癌が寛解したと思いたいがために無意識のうちに頭を回らせなかったともいえる。

青砥も色々気遣い須藤を支え、須藤も最後に愛情を感じながら命を終えることができたのは、幸せだったのかもしれない。

青砥のような立場に立ったとき、自分だったらどうするのか?

難しい。

正解はない。

 

 

キャスト

青砥健将:堺雅人

須藤葉子:井川遥

 

 

原作

「平場の月」
著作者:朝倉 かすみ
第32回山本周五郎賞受賞
第161回直木賞候補
第4回北海道ゆかりの本大賞受賞。

そして2019年時点で8刷でした。
現在はもっと増刷されているでしょう。
ひそかな大ヒット作品だったのですね!

 

 

映画のみどころ

ズバリ、堺雅人さんの演技でしょう!

なんといっても、細かな心境の演技が見どころです。

 

 

印象的なところ

私が個人的にこの小説の中で特に印象に残った箇所は

須藤が癌になって抗がん剤治療を受け働けなくなった時、妹が「うちにくればいい」と言った。須藤は妹の家に行くのはイヤだった。だんなさんにも悪いし。だったら生活保護を受けたいと言った。
すると妹は
「ほんとうに頼る人のいない人たちの生活を守る制度なのに生活を援助する身内がいるのを隠して生活保護をもらおうとするのは不正。

身内の世話にはなりたくないけど、国の世話にはなってやってもいいっていうのは意固地で尊大でワガママだ」
と言った。

須藤はそう言われて
「だいぶ参った」と。

須藤は
「妹には感謝もしている。いてくれてよかったとも思う。けど、わたしの中でどこまで寄りかかっていいというラインがある。(妹に言わせたら)自分勝手な線引きなんだろうけど、できるとこまでは死守したいんだ。泥船だけど、わたしの船じゃん。私、船頭じゃん。漕いでいたいんだ、自分で」

「(妹が)言うんだよ。『私がつぶれそうになったら、生活保護受けていいよ』って。身内ってそんなに頑張らなきゃならないものなのかね」

「(妹だけど)ときどき知らないひとみたいになるんだ」

 

 

平場の月とは

須藤を月に見立てている箇所が2回出てきます。

青砥が須藤のアパートの前を通り過ぎるとき見上げたら須藤が窓から顔を出した。須藤の表情はその夜の月に似ていた。ぽっかりと浮かんでいるようだった。清い光を放っていた。

「平場」とは“普通”。

「平場の月」とは

“一般人の青砥の普通の生活の中に人知れず月のように輝いてみえた須藤”

ということでしょうか。

太陽ではなく“月”と表現しているところがジーンときますね。

 

あらすじ

青砥健将は中学時代の同級生・須藤葉子と地元の病院で再会する。

青砥は胃の内視鏡検査で病院を訪れ、須藤はその病院の売店で働いていた。

須藤も青砥もそれぞれかつて結婚したが、今は独身同士。出身の埼玉へ戻ってきて青砥は実家で、須藤はアパートで独り暮らしをいた。

青砥は中学時代、友人の次に須藤に告白したが、「いやです」「だれともいやなので」ときっぱり振られていた。

青砥はそういったワケありの元同級生との偶然の再会にわくわくし、須藤を飲みに誘った。それからちょくちょく会い、つきあうようになる。

青砥の検査の結果はなんともなかったが須藤も検査を受け、結果大腸癌だった。

須藤は手術を受けストーマをつける生活になる。慣れない生活に不安をかかえる須藤を献身的に世話をやく青砥は「おかあさんみたいにやさしい」と言われ
る。青砥は須藤の初恋の相手だったとも須藤の妹から聞かされる。

須藤の抗がん剤治療は来年の3月に終わる予定だった。

二人の合言葉は「はい、来年の3月」。

青砥は「須藤とふたりで乗り切るんだ」と心に誓う。

抗がん剤治療が終わり須藤はしばらく青砥の会社で派遣社員として勤めその期間を無事終えた。その後病院でのパートの仕事も再開した。

抗がん剤治療終了後は三ヶ月おきに定期検診を受けることになっていた。

結果を須藤は検査結果をハッキリ言わなかった。Vサインをして見せただけだ。それを見た青砥は「なんでもなかったんだな」と判断した。

夕食後、機が熟したと思った青砥は須藤にプロポーズをした。須藤は「それ言っちゃあかんやつ」と言った。青砥はバカにされたと思い頭に血がのぼった。ケンカになった。

須藤は
「もう青砥は一生会わない」
「偶然行き合っても声をかけるな」
とも言った。

青砥は以前来年温泉に行くと約束したことを持ち出した。

「1年は我慢してやる。1年はおまえの言う通りにする」
と言った。

青砥はそれから1年我慢した。長かった。いろんな思いや後悔が何度も頭をよぎった。そして須藤の死を知った。

あのプロポーズした日、検査の結果をちゃんと聞いていなかった。すでに腹膜播種がみつかって転移がわかっていたんだ。だから青砥のプロポーズを「それ言っちゃあかんやつ」と言ったんだ。

青砥は自分がプロポーズすることで頭がいっぱいで須藤の気持ちを、検査の結果をちゃんと聞くことが頭になかったのだ。

須藤は最後
「合わせる顔がないんだよ。青砥、検査に行ったかな」
と言ったと妹から聞いた。

生前、須藤はハーブを自給自足していた。少ししか使わず余ったハーブを水に差して根が出てきたらアパートの隣りの駐車場の細いスペースに植えていた。

青砥はその菜園へ行って穴を掘ってみた。折りたたんだ封筒が出てきた。青砥がプレゼントしたネックレスに青砥の家の合鍵が通してあったのが入っていた。

「雑なんだよ、おまえ」
須藤との思い出が走馬灯のようによみがえった。

 

映画
「平場の月」
2025秋公開予定