映画『楽園』ネタバレあらすじ&感想
「観る人がそれぞれ感じてください」
的な映画です。
ストーリーがハッキリしていなくモヤモヤ感が残ります。
ハッキリしないと感じるのは、別々の話を無理やりくっつけている感じがし、でも一部が重なり時系列も飛ぶから「今はいつの話?」「どこがどう重なったのか」と頭を整理しているうちに話が進んでいくから。
モヤモヤ感が残るのは、ひとつは犯人がわからずじまいで終わった事件。におわせているけど決定的な場面がない。もうひとつはどんな罪を犯したのかよくわからず悪人になって自決しようとして死にきれずに映画が終わってしまったこと。
「よくわからないな~」というのは、モヤモヤっとしてスッキリ感がありません。
ディズニー映画のように善悪が単純にわかり、最後は悪者が罰を受けるといった映画ではありません。
原作はどうなんだろうか?
と思い映画を観てから原作を読んでみました。
目次
原作
吉田修一さんの本で『楽園』を探してみましたが、ありませんでした。
そこで映画の解説を読んでみましたら
『犯罪小説集』の中の
・青田Y字路
・万屋善次郎
この短編2編を組み合わせて映画にしていて、原作は実際にあった犯罪をもとにしているとのことでした。
豪士は犯人なのか?
原作を読んで第一に知りたかったことは
「豪士(綾野剛)は犯人だったのか」
ということ。
それは原作にもハッキリとは書かれていませんでした。
原作通りに作らない方法もありますが、この映画は決定づけてしまうことを避けた作りにしています。
善次郎は何をやったのか?!
もうひとつの疑問は「良い人」だったはずの善次郎(佐藤浩市)が映画の後半では悪人になりテレビで報道され自決を図るという展開が急すぎるし、いったいどうしちゃったんだろう?何があったの?
といった点。
これは原作と映画は多少違いました。が、「なるほどな」と納得しました。
やはり小説のほうが細かい描写があるので、わかりやすいです。
モヤモヤ感が残る映画
あえてストーリーを複雑にし、モヤモヤ感を残す映画にしたのではないかと感じました。
現実社会では白黒ハッキリしないことがたくさんあります。大衆心理で正義が無視され、間違ったことが正義になることもあります。
映画を観て、原作を読んでみて、短編2編を映画にまとめた脚本力はお見事だと私は思いました。
確かにわかりづらい。鑑賞者が2時間で受け止めるには不明点が多く「なんのための2時間だったんだ」と不満に思う人がいるのもわかります。
私もディズニーのようなわかりやすい映画のほうが本来は好きです。
が、この映画はすごく考えさせられたし、考えさせられた点は考えるべき内容でした。こういう映画があっても良いと思います。
残酷なストーリーは「もやもやっ」と表現しても良いのではと。
身につまされる
善次郎は妻を亡くして第二の人生を故郷ですごそうと意気揚々と戻ってきたのにと思うとなんとも残酷な人生です。
豪士は自分なりになんとか暮らしてきたのにコミュニケーションがうまくいかず誤解を受け悲惨な人生になってしまった。
紡は失踪事件に巻き込まれないで良かったとは言われず、町内で力のある祖父の孫の方が失踪してしまったことで、傷つく言葉を浴びせられ「自分が幸せになっていいのだろうか」と思いながらの人生になってしまった。
一歩間違えば人生は残酷なほうへ転がってしまう、身につまされるお話です。
映画のストーリーを3つにまとめてみました。
途中までですがネタバレになりますので、ご注意ください。
あらすじ
町内で起きた少女失踪事件
母親と二人でリサイクル品販売をしている豪士(綾野剛)。近所で幼女失踪事件が起きたとき、町内の人と一緒に捜索に参加する。川の中にランドセルだけが残っていただけで少女は見つからなかった。
12年後、またしても少女失踪事件が近所で起きた。12年前の事件のとき、豪士(綾野剛)と一緒に捜索に参加していた男性が豪士(綾野剛)の動きが怪しかったと言い出した。「今回の事件も12年前の事件も豪士(綾野剛)が犯人に違いない」と近所の人たちを扇動して豪士(綾野剛)の家に押しかけた。
豪士(綾野剛)は留守だった。町内の男たちは勝手に家の中を調べ回った。そこへ豪士(綾野剛)が戻ってきた。男たちが自分の家を荒々しく声を上げながら自分を捜し回っている様子を家の近くから見て豪士(綾野剛)は恐ろしくなった。
少年の頃、学校の悪ガキたちが家に押しかけて片言日本語の母親をからかい、追い払っても窓ガラスを割ったり悪さをしていたことを思い出した。
豪士(綾野剛)は家と反対方向へ逃げ出した。それを見つけた男たちは「いたぞー」と言って追いかけ始めた。
豪士(綾野剛)は近くのそば屋へ駆け込んで「助けてください」と必死に頼み込む。しかし事情をのみこめないそば屋の店主はノンキに取り合わない。口べたな豪士(綾野剛)もうまく説明できない。とうとうキレた豪士(綾野剛)はテーブルをひっくり返し、店で暴れて自ら灯油もかぶり火をつけ投身自殺を図った。
その後少女も犯人もみつかった。豪士(綾野剛)は犯人ではなかった。しかし町内の男たちは今回の事件は違ったとしても12年前の幼女失踪事件は犯人だった、だから自殺したんだと思い込む。
少女失踪事件の友人
少女失踪事件で直前まで一緒にいた友人の紡(杉咲花)。小学校の帰り道、Y字で別れてそれぞれの家に帰った。そのあと友人が失踪したと知る。紡(杉咲花)は心に傷を残したまま地元で暮らす。
成長した紡はホームセンターで働いていた。ある日、地元の祭りの練習が終わって自転車で帰っていた。すると、後ろから車が走ってきた。勝手におびえて転んでしまう。その拍子に、祭りで使う笛を壊してしまった。車を運転していたのは豪士(綾野剛)だった。新しい笛を買いに行くという紡に豪士(綾野剛)は車を出してくれ一緒に行き笛代も払ってくれた。
豪士(綾野剛)は母親に連れられていろんな土地で暮らしてきたという。
「どこ行っても同じ。どこにもない」と豪士。「なにが?」と紡。
紡(杉咲花)は豪士(綾野剛)に「祭りに来る?」と聞く。豪士(綾野剛)は「仕事が終わってから行く」という。
笛を吹いて祭りに参加していた紡(杉咲花)は豪士(綾野剛)の姿を探していたが見当たらなかった。そのとき豪士(綾野剛)は投身自殺をしていたのだ。
祭りが終わって豪士(綾野剛)の投身自殺の現場に駆けつけた紡(杉咲花)。
ちょうどその場にいた善次郎(佐藤浩市)に「犯人と言われていた人を見ましたか?」と聞く。「人を殺すような人に見えましたか?」と。
善次郎(佐藤浩市)は「外に出てきたときはもう燃えていたから(顔は見えなかった)」と答える。善次郎(佐藤浩市)はこの土地にUターンしてきたばかりだった。
その後、紡(杉咲花)は上京して青果市場で働くようになる。紡(杉咲花)の幼なじみの広呂(村上虹郎)も後を追うように上京してきた。広呂(村上虹郎)が紡(杉咲花)に「なんで東京にいるの?」と聞くと「あの街を出たかったから」という。広呂(村上虹郎)は紡に「おれたちのために楽園つくれ」と言う。「なに楽園って?」
地元の祭りで笛吹きが足りないと言われ、帰郷した紡(杉咲花)に失踪した友人の祖父(柄本昭)が
「東京で楽しくやっているか」
とイヤミを言う。
「愛華だけが死んでどうしてお前が生きている?!」
紡「Y字を通るたびに私だけ幸せになっていいのかとずっとそう思っていました」
祖父「誰かが罪人になれば助かる。だから炎があがったときほっとした」
紡「みんなが(豪士を)殺したんだ」
紡「誰が犯人かなんかわからなくていい。わたしはかかえて生きる」
村八分
村にUターンし養蜂業を始めた善次郎(佐藤浩市)。奥さんを病気で亡くし子どももなくひとりで生まれ故郷へ戻ってきた。途中捨て犬を拾って飼う。
村の老人たちは最初は善次郎(佐藤浩市)を歓迎してくれた。あるとき善次郎(佐藤浩市)はハチミツで村おこしをしようと老人たちに相談をする。老人たちは本気にしなかったが反対もしなかった。そこで善次郎(佐藤浩市)は自治体にかけあい予算を出してもらった。すると「勝手に予算をもらった」ことに腹を立てた老人たちが「予算が出るなら他に修繕したい場所がいくらでもあるんだ」と釘を刺しに来た。
善次郎(佐藤浩市)は孤立するようになる。極めつけは飼い犬が村人に噛みついたことだ。善次郎(佐藤浩市)は養蜂業をやめ山から若い木を掘り出してきて何本も自分の家の前に植林しだした。また亡くなった奥さんの洋服だろうか、トルソーに着せて家の前に並べた。奥さんからもらった手紙を読み返してすごすようになる。
しばらくして「勝手に植林しては困る」と役所の人が来てショベルカーで木を掘り起こした。すると木の下から白骨が見つかった。善次郎(佐藤浩市)は殺人を繰り返しその骨を木の下に埋めていたことがニュースとなる。善次郎(佐藤浩市)は森の中で鎌で自分の腹を切って自殺を図ったが、捜索隊に見つかり救急車に乗せられていった。
キャスト
豪士:綾野剛
母:黒沢あすか
幼女誘拐被害者の祖父:柄本明
幼女誘拐被害者の祖母:根岸季衣
紡:杉咲花
広呂:村上虹郎
善次郎:佐藤浩市
善次郎の妻:石橋静河
村人:品川徹
他
スタッフ
【監督・脚本】
瀬々敬久
【原作】
吉田修一
「犯罪小説集」