瀬戸内寂聴著『いのち』自分は天下の天才!と岡本太郎
初出が2016年4月ですから、寂聴さんが90歳をすぎてから執筆されていることになります。
1956年に本格的にデビューされているとのことですので、60年以上も文壇の歴史をご存じなのですから、当事者として関わられたお話など、興味深く読みました。
目次
岡本太郎氏
寂聴さんは岡本太郎氏とも懇意にされていました。
あるとき太郎氏から
「きみはいつも和服だから畳の部屋がいいかい?四畳半か、六畳か、どっちが好い?」
と突然聞かれます。
「何の話ですか?」
と寂聴さんが聞き返すと、
「そろそろ、ここへ来て暮らしなさい」
と言われます。
寂聴さんが断ると、太郎氏は、
「天下の天才の岡本太郎の内助の女になって死ぬことが、どれほど女として名誉なことか。もっとものわかりがいいと思っていたのに」
と残念がったとのことです。
自分のことを“天下の天才”といって寂聴さんを誘う岡本氏の人間性の一端が垣間見られます。
岡本敏子氏
2011年にNHKで放送された『TAROの塔』。
岡本太郎氏と養子で秘書の敏子氏のドラマを思い出しました。
前々から二人の関係が変わっていると思っていました。
敏子氏はとにかく太郎氏に生涯かけて尽くしたいと願っていて、太郎氏はそれが当然、それでいいと思っている。それは自分が“天下の天才”だから、自分の世話ができるのは、幸せなことなんだという価値観なのでしょう。
敏子氏が、最後湯船の中で亡くなっていて数日経って発見されたなど、私たちは知るよしもありません。
こういったことをサラリを書けてしまうのが、寂聴さんならではです。
河野多恵子氏と大場みな子氏
私は存じ上げなかったのですが、おふたりとも芥川賞作家であり当時は話題になった売れっ子の作家さんだったとのこと。
そのふたりの友情関係も赤裸々に書かれていて興味深いです。
本書を読んでおふたりのことを知ったからには、作品も読んでみたいと思いましたが、このように埋もれてしまう作家さんは多いのかもしれません。仕方が無いのかもしれませんが、残念なことでもあります。
本書は小説というのだから、すべてが事実ではなく創作しているのでしょうが、このように実際の作家さんたちとの関わり合いを残していってほしいと思ってしまいます。
すでに亡くなっていらっしゃるから書けたというのもあるのかもしれませんが。
そういった意味で大変興味深い本でした。