上橋菜穂子著『狐笛のかなた』隠れた名作とはこのこと!
映像化された『精霊の守り人』『鹿の王』『獣の奏者』の陰に隠れた名作!『狐笛のかなた』をぜひお勧めしたい!
本書のあとがきで上橋さんはこの作品を書き上げるまで10年以上かかっていると述べています。
あとがきの日付は2003年9月なので1993年以前から書かれていたようです。
これは納得がいきます。
と申しますのは初期段階の作品のような気がしたからです。
目次
初刊年譜
1989年『精霊の木』(デビュー作)
1991年『月の森に、カミよ眠れ』
『狐笛のかなた』はその後に着手したと思われます。
1996年『精霊の守り人』
2006年『獣の奏者』
(2003年『狐笛のかなた』)
2014年『鹿の王』
2022年『香君』
パターン
上橋さんの物語は
架空の国があり国同士で争いが起こる。腹の探り合いがあり、術を使う。そこに使える者たちのはたらきぶりで国が守られたり滅んだりする。
というお話がパターン化されています。
いろんなパターンを創造できる才能はすごいですね!
『精霊の守り人』は何冊にも渡る超大作。
『狐笛のかなた』は1冊で完結しています。
ラストは「こう来たか!」と唸る思いでした。
収まったといえば収まったのですが続きを書いてほしいですね。
あらすじ
主人公の小夜は産婆の祖母と二人で暮らしていた。母は幼い頃に亡くなっていた。
ある夕暮れ、小夜は一匹の傷をおったキツネをかくまってあげたことで里人が近づかない「森陰屋敷」まで来てしまった。
そこに住んでいる小春丸という同じくらいの歳の男の子と出会う。二人は仲良くなり毎晩のようにこっそり会い楽しいひとときをすごしていた。
しかしそれはまもなく終わりを告げた。
やがて成長した小夜は祖母が亡くなり一人で生計を立てて暮らしていた。ある年の暮れ市場へ出かけた小夜は鈴という年上の女性とその兄・大朗に出会う。二人とも小夜の母を知っているという。
市場からの帰り道、小夜は夜盗に襲われたが、すんでのところで見知らぬ若者に助けられた。
小夜の住む春名ノ国の跡継ぎが亡くなった。他に跡継ぎがいないのなら、隣国・湯来ノ国より養子をもらうよう、両国を統括する領主より言い渡されたが、即答しなかった春名ノ国の領主・春望。
即答しないということは他に手があると勘ぐった隣国、湯来ノ国の領主・盛惟は久那という呪者に様子を探らせる。
春名ノ国と湯来ノ国は敵対していたのだ。
久那は狐笛を用いて使い魔となった狐(霊狐)たちを操る呪者だ。使い魔たちは久那に命を握られていた。久那の命令は絶対だった。
久那は三匹の霊狐を呼び寄せた。玉緒、野火、影矢は人間に化けることもできる。そして久那の命令を果たすために人を騙し殺すこともあった。
そして春名ノ国が息子をひとり隠していたことをつきとめる。あの小春丸だった。
春名ノ国の領主・春望は小春丸を正式な跡継ぎとして領主の前にお披露目し承認してもらうことを決意する。
しかしその道中、敵国の湯来ノ国に小春丸の命が狙われる。敵国に使える久那は三匹の霊狐に命じその役目を果たそうとした。三匹の霊狐は絶対に逆らえないはずだった。
しかし野火はかつて小夜が助けた傷をおった狐だった。野火は小夜への恩を忘れてはいなかった。市場の帰りに小夜を救ったのは野火だった。
そしてまたもや小夜を救うために、自分の命をなげうって主人・久那を裏切ろうとしていた。
主人を裏切った野火の運命は?
小春丸は無事後継者になれるのか?
小夜たちは春名ノ国を守り切れるのか?
春名ノ国と湯来ノ国の戦いはいかに?
意外な結末は?!
小夜の能力
主人公・小夜の母は〈聞き耳〉の才能があり草木に宿る魂の声を聞き分け、人に伝えることができた。優れたオギ(魔物から身を守るための技)の使い手だった。
小夜も〈聞き耳〉を持ち、人の思いを聞が聞こえてしまう。
春名ノ国を守るために、鈴と大朗の父が守護の術をかけたが、父亡き今は敵国・湯来ノ国の呪者にところどころ破られていた。破られたところを闇の戸という。鈴と大朗が、見つけては修復しているが追いつかない状態だった。小夜はそういった知識がないうちから、その闇の戸が見え、教ってもいないのに見事に修復できた。しかも鈴と大朗の修復を上回る技だった。
〈あわい〉という霊力のある獣たちが暮らす深い森がある。小夜は5歳にして〈あわい〉に隠れて自らの身を守った。〈あわい〉と人の世を行き来できる能力を持っている。