映画『最後の決闘裁判』お薦め☆見応えのある映画!ネタバレ詳細
決闘裁判は 日本では耳慣れない言葉です。
決闘によって もめごとの正否を決定づけるという方法です。
神の前で誓った決闘ならば神の裁断がくだる。そのため結果は、勝った方が正しいので無実、負けた方は間違いなので有罪という宗教思想が根本にあります。
「神の前」でなんでも決めようとする欧米の恐ろしい慣習です。
フランスでは1296年に国王が決闘裁判を完全に封じました。
しかし不満が出たため復活し、14世紀末まで国で認められていました。
科学が発達していなかった時代においては、当人と関係者の発言が罪を下す決定的な材料となりました。
「自分は悪くない」と発言すれば金持ちや地位の高い人、決定権のある人、またそういう人たち懇意にしている人などが有利になるでしょう。
「言ったもん勝ち」の世界です。
そうなると逆の境遇の人はなすすべはなくなります。
重罪で判決を下すときほど、決闘裁判が採用されました。
決闘裁判の条件
決闘裁判を行う条件は四つ。
1.その犯罪が殺人、反逆罪、強姦など重罪であること。
2.その犯罪が実際に起こったのが確実であること。
3.ほかに法的な救済方法が一切なく相手に有罪判決を下すには決闘“片方の死体という証拠”しか手段が残されていないこと。
4.被告人に罪を犯したという強い疑惑があること。
です。
日本でも
ちなみに日本でも鉄火起請や湯起請という恐ろしい裁判がありました。
真っ赤に焼けた鉄の棒を手で握り無事に神様へ運べたものが勝つ
煮えたぎる熱湯に手を入れて火傷をしなければ無罪
というものです。
室町時代から江戸時代まで行われていたそうです。
正しいと考える人が少なくなったため行われなくなりました。
カルージュ・グリ事件
本映画は、どういう事件の決闘裁判なのか、原作を元に、簡単にまとめてみます。
14世紀のフランス。
貴族のジャン・ド・カルージュとジャック・ル・グリが決闘します。
以下、カルージュとグリ。
もともと二人は友だちでした。
ところが仕える主人がピエール伯に変わったときから人生が変わります。
グリはピエール伯に気にいられました。そのためカルージュが手に入れるはずのウノー・ル・フォコンの土地をもらったり、エクスム城塞の長官に任命されたりと、ひいきされます。
カルージュはピエール伯から疎まれます。祖父・父と代々受け継いできたベレム長官の座をピエール伯は他の者に任命しました。また妻マルグリットが嫁ぐときの結納に含まれていてカルージュのものになるはずだったウノー・ル・フォコンの土地はグリに与えてしまいます。
こういったことから、カルージュとグリは不仲になっていきます。
しかしジャン・クレスパンが開いた宴に招かれた二人はみんなの前で握手をし表面上は仲の良いところを見せます。
このとき友情の証として、カルージュは妻マルグリットにグリの口にキスをするように命じます。それはその土地の風習でした。
カルージュ家は金銭的に逼迫していました。そのためカルージュはしょっちゅ遠征に行って戦いに加わり報奨金をもらって家計をなんとかしようと努めていました。
ベレム長官になれなかったカルージュには、年老いた母がいました。城を出なければならなかった母はカルージュのもとにやってきます。マルグリットと義母は仲がよいとはいえませんでした。
事件があった日、カルージュは留守でした。
カルージュは出かけるとき、マルグリットに「ひとりにならないように」と注意します。
しかし義母は自分が外出する際に使用人を全員つれてマルグリットをひとりにして出かけてしまいました。
その様子をグリの家来であるルヴェルがグリに報告します。
そしてグリとルヴェルはマルグリットがひとりでいる城にやって強姦を働いたのです。
この罪に対しての決闘裁判が行なわれたのです。
原作との違い
肝心の犯罪が行なわれたシーンは原作と映画では違いがありました。
双方合意
原作)グリは、マルグリットがグリから強姦を受けたという日時には自分はそこに行っていない。
自分はマルグリットと2回しか会っていない。しかもその2回目は事件の1年も前のこと。
誰か別の人と間違えて自分を訴えているのではないか。
と主張している。
映画)
グリはマルグリットと双方合意の上の行為だった。
ひとりか二人か
原作)
ルヴェルがマルグリット宅の門をたたき
「外は寒いのでお話する間、少し中で暖まらせていただけないか」
その話は
「借金返済の期限を延ばしてもらえないか」
という内容。
マルグリットは、なぜそんな話を自分にするのかいぶかしく思った。
すると、ルヴェルは
「グリからマルグリットに愛の告白を頼まれている。グリに変わって気持ちを話します」
と話し始めた。
警戒したマルグリットは「おやめください」と断る。
そのとき、ドアが開いてグリが入ってきた。
手荒なまねを始めたグリに対して抵抗すると、グリはカルージュ家の金銭問題をあげ「自分のいうとおりにしたならば復興に力を貸そう」という。
ルヴェルとグリは二人で強姦を働いた。
映画)
ルヴェルは最初だけいて、あとは外に待機していた。犯行に及んだのはグリひとり。
決闘裁判
この裁判の恐ろしいところは科学的根拠もないうえに、負けたことが有罪となることです。
そのうえ、強姦罪の場合、カルージュが負けたら即刻マルグリットは公衆の面前で全裸にされ、火あぶりの刑にされる
ということ。
映画でマルグリットは
「決闘裁判は、こんな恐ろしいことだとは知らなかった。なぜおしえてくれなかったのか」
とカルージュをなじります。
そりゃそうですよね。
夫が負けたら自分は火あぶりだなんて、恐ろしすぎます!
また
「火あぶりは火がついてから20~30分で死にます」
と誰かがマルグリットに伝えていましたが、他人事だからそんなことも言えるのでしょう。
決闘シーン
撮影が難しい決闘シーン。
圧巻でした!
原作通りにグリがカルージュの足に一撃を食らわし、「大量出血で死ぬ」と思わせます。
その後グリが体制を戻し、グリの口にとどめを刺します。
原作では
短剣をグリのあごの下に定めた。
とあります。
そこは史実でもどちらが正確か不明なのかもしれません。原作者はあごの下としましたが、口の中に短剣を刺すほうが演出的に効果的だったから映画では口にしたのかなと思っています。
英雄カルージュ
勝利したカルージュは大歓声の中、一躍パリの英雄となりました。
国王の侍従にも任命され、王室から年金も授与されました。
補償金として金貨6000リーヴルも与えられました。
負けたグリ
丸裸にされ、重罪犯として絞首台から吊されます。そして動物たちによって食べられ、骨だけになると風と太陽で漂白されます。
親族や友人が死体を回収できないように、医師たちが解剖のために盗まないように高い石壁になっていて錠をかけられた鉄の門がついています。
マルグリットの表情
映画ではマルグリットが成長した息子と草原で遊ぶ様子が映し出されていましたが、どうにもうかない顔をしています。
これは何を意味するのでしょうか。
映画感想
脚本と撮影、演出、全てにおいて期待以上の出来の素晴らしい映画でした。
食い違いが見られるシーンは
・カルージュの証言
・グリの証言
・マルグリットの証言
として3パターンを繰り返し、それぞれがどのように証言したのか映します。
この手法は効果的でした。少しずつ違います。おもしろい手法でした。
真実は闇の中と言われる本事件。
マルグリットの証言は真実なのか
グリは無実なのではないのか
研究者の中でも意見が分かれているそうです。
決闘裁判で勝ち負けが着いたからといって、それが正否とはならないと現代ではほとんど人が思っています。
「神の裁き」はあてにならないと。
永遠のミステリーとして語り継がれていくのでしょうね。
訳者のあとがき
『鬼気迫る決闘シーンをスコセッシ監督がどんな俳優を使いどう描くのか大いに期待したい 2007年11月』
期待以上の映画だったのではないでしょうか。
映画
『最後の決闘裁判』
2021年10月15日公開
読み応えのある原作!
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